月のない晩のこと。
我が家のサボテンの花が咲きました。
何サボテンかはわかりません。
純白の花です。
昔、私が12、13歳だった頃、
母が育てていたサボテン科の「月下美人」が咲きました。
「月下美人」は夜に花を咲かせ、一晩しか花を咲かせないことで有名です。
この日は月が出ていて、
音はなく、
むっとする空気が身体に纏わりく熱帯夜でありました。
眠りに着く前だったでしょうか、それとも、もっと深い夜だったでしょうか。
母と一緒にその花を見ていました。
純白の大輪は、
息が止まりそうなぐらい美しく、
気絶してしまいそうなくらい甘い香りを放っていました。
幼い私は、月下美人を前に何とも言えぬ居心地の悪さを感じたことを覚えています。
母は、
「月下美人が一番好き。」と言いました。
この時、
母が、いつもの母でない別人に見えたのであります。
純白の花は、水のように流れる青白い月の光を浴びながら、
微かに潤んで、確かにそこに咲いていました。
このまま、朝が来ないような気がする夜に。
今、少しは大人になったであろう私は、
月下美人に似たサボテンの花が咲く夏を気にするようになり、
あの、酔ってしまいそうなぐらい色っぽい香りを待ちわびるようになったのです。
夜のはなし。